2009年5月18日月曜日

2009年度歴研近代史部会大会

近代史部会大会を開催します。みなさまのご参加をお持ちしております。

歴史学研究会 近代史部会 大会

帝国秩序とアナーキズムの形成

――抵抗/連帯の想像力

日時:2009年524日(日)、10:00〜

会場:中央大学多摩キャンパス
[歴史学研究会の大会ページ]をご参照下さい。

報告者:

田中ひかる
「アメリカ合衆国におけるロシア系移民アナーキスト――1880年代から1920年代」

梅森直之
「日本思想史におけるアナーキズムの位置――初期社会主義との関連を中心に」


コメンテーター:山口守氏、木下ちがや氏

司会:森下嘉之(近代史部会運営委員)、廣木尚(近代史部会運営委員)

時程:

10:00- 10:10 趣旨説明
10:10- 11:10 報告①田中ひかる氏
11:10- 11:20 質疑
11:20- 12:20 報告②梅森直之氏
12:20- 12:30 質疑
12:30- 13:30 休憩
13:30- 14:00 コメント①山口守氏
14:00- 14:30 コメント②木下ちがや氏
14:30- 14:50 休憩
14:50- 全体討論
17:00 終了


【2009年度大会近代史部会主旨文】

帝国秩序とアナーキズムの形成―抵抗/連帯の想像力

 今年度の近代史部会は,「アナーキズム」を取上げ,その思想=実践形態がどのような歴史的・社会的・政治的文脈のなかで誕生し,どのように展開した/しているかを再検討する。
 今日の反グローバル化運動のなかで,「アナーキスト」を名乗る人々が多く登場し,アナーキズムが抵抗/連帯の政治的方法論ないしヴィジョンとして提起されている。ここで語られる「アナーキズム」は,国家を越えた多様な地域的抵抗をその差異のままに連帯可能にする実践,つまり「真のグローバル化」運動(D・グレーバー)と解釈されている。近年の歴史学研究において,新自由主義やグローバル化が批判的に検討されているなかで,それらに抵抗するものとしてアナーキズムを歴史的に再検討し,その可能性を論じることの意義は非常に大きいだろう。
 戦後歴史学においても,アナーキズムに関わる研究が多く蓄積されてきた。だがそれらが地域単位,国民国家単位の研究であったことは否めない。しかしながら,近年のアナーキズム研究は新自由主義とグローバル化に伴う問題に応答し,地域単位の研究蓄積を新たな枠組みのなかで,批判的に発展させている。すなわち,アナーキズムが今日のグローバル化の根ともいうべき歴史的状況において成立し,国民国家の単位を越えて展開する「帝国」の統治秩序の随伴/対抗運動として拡大した,ということを明らかにしつつある。
たとえば,ベネディクト・アンダーソンは,1880年代の初期グローバル化においてアナーキズムが形成されたという見取図を示した。初期グローバル化とは,帝国主義と世界的なネットワークの拡大を指す。1880年代からロシア革命以前の世界において,アナーキズムは,亡命や移民,そして刊行物の伝播によって,国民国家や地域の境界を越えたネットワークを形成することにマルクス主義よりも成功し,隆盛期を迎えた。
 たしかに,ロシア革命以降起こった「国家」と「社会主義」の結合の必然化は,アナーキズムを弱体化させ,その歴史的意義をも隠蔽してきた。だがアナーキズムは,現代にまで通じるグローバルな歴史的過程から現われてきたものなのである。歴史的にアナーキズムを再検討することは,グローバルな帝国秩序の歴史的存在形態を逆照射するとともに,脱国家的な抵抗という今日的問いを,歴史内在的に考察することへと繋がるであろう。
 以下,二点にわけて論点と課題を提示する。
 1)「アナーキスト」たちの地域横断的ネットワーク
 アナーキストたちは,初期グローバル化が可能にしたネットワークによりヨーロッパ地域を越えて運動を組織したが,この過程は植民地主義に抵抗する民族主義者たちの運動と同時並行して進んだ。たとえば1880年代以降,当初多くがアナーキストによって実行されたテロリズムは,ヨーロッパの民族主義者たち,そして植民地の民族主義者たちへと継承されていく。逆説的だがアナーキストたちは,帝国秩序への抵抗として展開されるナショナルなものと,それを越えるものとを結びつけることにより,広範な抵抗のネットワークを形成しえた。この内実を実証的に明らかにする必要がある。
 2)帝国秩序・抵抗運動との結合関係──「アナーキズム」という思想=実践の多形化
 アナーキズムの思想的意義も,こうした歴史的文脈のなかで明らかになる。こうしたネットワークにおいて,アナーキズムはそれが位置する地域ごとの政治的・文化的文脈に応じ,多形的に変容した。帝国・植民地主義への抵抗のなかで,統治の秩序に対して随伴/対抗という両義的な関係を持ちながら,アナーキズムは無数に変容し続ける。自らを「アナーキスト」と呼んだ人々の発話と実践は,帝国秩序を支える資本主義・エスニシティ・ジェンダー・地域主義といった他の無数の言説=実践と,流用・連帯・敵対関係におかれている。こうしたことが「アナーキー」という理念を多様化し,この理念を意味内容から定義することを困難にしてきた。だが,こうした重層的な歴史的文脈を解き明かすことによってこそ,アナーキズムの理念,ひいてはその現在性を考えることができる。今日の反グローバル化運動におけるアナーキズムの多様性も,帝国とグローバル化への抵抗のなかで繰り返されるアナーキズムの再解釈/再展開の延長線上に,成立しているのではないか。
 以上の観点から今年度の近代史部会は,田中ひかる氏と梅森直之氏に報告を依頼した。
田中ひかる氏「アメリカ合衆国におけるロシア系移民アナーキスト──1880年代から1920年代──」では,「人はなぜアナーキストになるのか」という問題を,ロシアからアメリカに移民してからアナーキストになった人々に焦点をあてて検討する。アナーキズムの成立という現象を,国民国家や地域という枠組みによってではなく,国境を越える人の移動や情報のやりとりという動向を軸にして捉えることを目指す。
 梅森直之氏「日本思想史におけるアナーキズムの位置──初期社会主義思想との関連を中心に──」では,アナーキズムを,資本主義に対抗する根源的な共同性構築の試みのひとつとして位置づけ,その思想的射程を,大杉栄や石川三四郎らの思想を中心に検討する。かれらのアナーキズムの特質を,階級や民族,種やジェンダーといった境界を超越する根源的な平等性の概念に見いだし,その思想と実践の意味を,資本主義ならびに他の対抗運動との連関のなかで明らかにすることを目指す。
 両氏の報告に対し,山口守氏と木下ちがや氏からコメントをいただく。さまざまな地域・分野からの参加と活発な議論を期待したい。(片倉悠輔)

〔参考文献〕*副題は省略
梅森直之編著『「帝国」を撃て』論創社,2005年。
田中ひかる『ドイツ・アナーキズムの成立』御茶の水書房,2002年。
同「アメリカ合衆国におけるロシア系移民アナーキスト」『歴史研究』46号,2009年3月。
デヴィッド・グレーバー,高祖岩三郎訳『アナーキスト人類学のための断章』以文社,2006年。
Benedict Anderson, Under Three Flags: Anarchism and the Anti-colonial Imagination. London, Verso, 2005.


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